こちらはComic1で配布しましたペーパーの内容です。
魔王軍へようこそのノーマルエンディング後のお話になります。

ネタバレを非常に大きく含んでおります。
ゲームを遊んでからでないと内容がわからないかと思いますのでご注意ください。



─  魔王軍へようこそ -After Normal Ending-  ─




 (また、あのパーティーか………)
うんざりした気持ちを押し隠して、俺はいつもの決まった台詞を並べる。
「お前が次のレベルになるには18の経験が必要じゃ」
初めは慣れなかった経験値を告げる行為も、今ではあくびをしながらでも言う事ができそうだ。
 アリアハンの玉座の前には、戦士、僧侶、魔法使い、そして勇者の4人のパーティーが来ていた。
全員が玉座の前でひざまずく事もなくなんともふてぶてしい態度でこちらを見つめている。
こういう柄の悪いところは、流石はあの男の血縁と言うべきか………。

 ───かつて魔王軍を追い詰め、人間の反抗の旗印であったオルテガ。
オルテガは人間離れした腕力と、あの男にしか唱える事のできない呪文の数々によって、勇者と呼ばれ敬われていた。
そして俺は、その勇者とかつて一度戦った。
当時の部下たちが、総力戦でなんとか取り押さえたものの、結局は護送中に逃亡。 
それ以降オルテガは、時折噂話は聞けども実際に見かけた者はない。
魔王軍の間では戦闘中の傷が元で死んだと考えられていた。

 その時の俺の部下たちはバラモス様の指揮下に入り、今でも各地で転戦している。
また俺に協力した人間たちもそれぞれの新しい生活を始めていた。
 武闘家・サラはイシスに戻りあの女王に再び仕える事を選んだ。
ただし女王を守る以外での戦闘には参加しないとの条件をつけてある。
 僧侶・ミリアは以前俺の助けとなってくれた秘書・リーナの勧めもあり、光の届かぬ国に向かった。
ミリアは以前の活動から、一部ではオルテガに次ぐぐらいの知名度がある。
こちらの世界で活動し魔王軍に関わっていると知られるのは得策ではないと考えたからだ。

 そして俺は、バラモス様に与えられた退屈なこの玉座に座っている。
それでも当初は混乱したアリアハンを立て直す仕事がそこそこ面白かった。
しかし、混乱を抜けると後はとんとん拍子で復興が進んだ。
俺にとって国の経営はそれほど難しくなかった事と、誰にも邪魔をされない事が大きい。
本来なら人間を襲うはずの魔物は、俺の味方なのだから。
そうしていつの間にか人間たちの間で最も住みやすい国とまで言われるようになった。

 しかし国の経営にいささか飽きてきた頃、突然城にある連絡が入った。
子供が16歳になるため、王に目通りを願いたいと。
馬鹿馬鹿しい話だ。 普通ならばそんなのをいちいち聞いていてはいられない。
しかし、城の門番をしている兵士はこう続けた。 『オルテガ様のご子息です』

 あのときの俺はどんな顔をしたのだろうか?
あの勇者に子供がいること、しかも冒険者として旅立とうとしている事に困惑したのか?
それとも16歳になったばかりの子供を安全なアリアハンから旅立たせようとする親に驚いたのか?
ただ確実に言えることは、門番の兵士は俺の顔を見て一瞬凍りついた。
きっと人間の王らしくはない顔だったのだろう………。


 「では、冒険を続けるがいい。 若き勇者よ」
目の前の冒険者たちにそう告げると、4人のパーティーはズカズカと帰っていった。
本当に礼儀を知らん奴らだ。 親の教育を疑うぞ………。
「お前たちも下がっていい」
俺は周りの者たち全員に聞こえるように告げた。
そして謁見の間に人の姿が見えなくなってから、玉座の上で足を組みなおす。

 「…楽しそう」
突然、誰もいないはずの玉座の後ろからポツリと声が聞こえた。
「なんだ、来ていたのか。」
姿が見えなくても声だけが聞こえる。 これは高度な魔法使いの呪文『レムオル』だ。
かつて俺の部下として戦ってくれた魔法使いのルーン。この子は今でも頻繁にアリアハンに来ていた。
高貴な家柄と全体行動に向かない性格のため、軍としても扱いに困ったらしい。
「ふん、かつてお前たちを苦しめたオルテガの子供を手助けしているのはなんとも皮肉なものだ。」
「そう………でも、見えない」
「見えない? 何がだ??」
「司令が………楽しそうだから」
「なに?」
ルーンは俺の事を今でも司令と呼ぶ。
魔王軍アリアハン方面侵攻部隊・司令官とはオルテガと戦った当時の役職だ。


それより楽しそうとは面白いことを言われた。 俺は今、まるで楽しくなんてない。
それどころか、何度も経験値を確認に来られてイライラしていた。
「また、軍は負けるかも………」
「あの子供たちにか、まず無理だろう。 まだレベルも6だ」
「………でも、司令は期待してる。 私も楽しみ」
「期待? 楽しみ? あいつらが勝つと俺たちは困るぞ」
「私、あの子達を助けてる…強い魔物にはギラを当てておいたり………」
「おい、そんな事はしなくていい。 あいつらは敵だ、誰かに知られると不味い。」
「もっと強くなって欲しい。 みんな困るぐらいに………ずっと勝って欲しい」
「……… ……… なにか、理由があるのか?」
「そうしたらまた、一緒だね………」
「??」
「また司令と一緒に、あの時のみんなで………。 今度も勝てるよね」
「そういうことか。ルーンはもう一度、あの頃のみんなと戦いたいというわけだ」
しかしルーンは俺の言葉に首を横に振った。
「司令も………そう願ってる」
「いや、今の俺にはアリアハンを安定支配するという仕事がある。 それを邪魔されては困る」
「ううん、だって司令………笑ってたから」
「なんだと?」
「あ、そろそろ町を出るころかも。 また………見てくる」
ルーンはそう言うと、城の隅にある防衛用の塔に向かった。
きっとそこから得意の呪文による狙撃であの子供たちの手助けをしているんだろう。
いや、そんな事はどうでもいい。
それより俺は………笑っていたのか? あの子供たちを見て??
……… ……… ………

 たしかに俺は今、毎日が退屈でしょうがない。
国王なんてポストに収まりはしたものの、結局それは軍の中枢には関われないということでもある。
バラモス様は俺の経済面での手腕を評価してくれたが、軍事面では力不足だったという事だろう。
オルテガを葬っていれば、こうはならなかったかもしれないが………。

 ………俺は、もう一度チャンスが欲しい。
ルーンの言うとおり、あの子供たちが勝ち続けれは、その姿を見て人間たちは再び活気付くはずだ。
まだまだアリアハンから外に出れば辛いだろうが、それでも順調に成長している。
そして俺は、将来危険な火種になる可能性があるのに、あの子供たちを放置している。
ルーンが手助けをしているときいても、軽く咎めただけだ。
不謹慎だが魔王軍全体を脅かすような事になれば………などと考えてしまう。
なるほど、確かに俺は楽しみにしているらしい。

 しかし、俺はルーンのように協力をする気にはなれない。
相手の手の内を知らないまま、勝手に強くなってくれなければ面白くない。
信じられない力で、魔王軍を圧倒して欲しい。
たった一人でアリアハンの司令部を壊滅させたオルテガのように。
そうだ、あの勇者オルテガの子供だ。
あのふてぶてしい態度といい、期待できるかもしれない。
それでこそ面白い。

そして、その時はバラモス様にこう提案するとしよう
「この度は、この世界の全てを陥としてご覧に入れます………」


-Fin-


2007/04/30 Comic1 ののの通信